『白き狼の宿命』 原題:THE WEIRD OF THE WHITE WOLF |
「そこまで信頼してくれるとは、諸君。なんとも心暖まる気持ちだな」(44P) *この皮肉っぽい調子がいかにもエルリックらしい。実生活では、待ち合わせなどで自分が来るか来ないか論議されている時にこの台詞を使ってみるといいだろう。 「サイモリル」 「サイモリル――目を醒ましておくれ」(59P) 「イイルクーン、悪魔の申し子め」(60P) *悲しみと怒りがのぞくエルリックの呟き。しかし、もとをただせばこの事態を招いたのはかれ自身なのではあるが。 「イイルクーン、大口をたたくのも今のうちだな。闇の力を使いこなすことにかけては、おまえにひけはとらない。わたしはエルリック――おまえに命令する者だ。とっととおまえの兎穴にもどるがいい。さもなくば、天井天下あまねくところの魑魅魍魎を呼び出して、おまえを吹きとばしてやる!」 「アルナラ神の六つの乳房にかけて――千度の死を味わうことになるのは、おまえだ」(60P) *イイルクーンに宣戦布告するエルリック。啖呵の切り方がいかにも向こうのファンタジー小説調だ。 「さもあろうな」(73P) *サイモリルをイイルクーンに奪われ、死にゆかんとしているタングルボーンズが「面目しだいもござりませぬ……」と詫びたのに対してこの大人気ない返答である。さすがにエルリックも悪いと思ったのか「おまえの仇はわたしの仇だ」とすぐにフォローは入れたが、さぞかしタングルボーンズも気まずい思いをしたことだろう。 「では、われらは互いに結びつけられているのだな」(88P) 「地獄の絆と、宿世の定めによって。それなら、それでよし――ひとは、メルニボネのエルリックとその剣ストームブリンガーの名をきけば、ふるえあがって逃げだすことになろう。われらは同じものなのだ――われらを見捨てた時代の落とし子なのだ。この時代がわれらを憎むというのなら、その火に油を注いでやろう!」(88〜89P) *一度は捨てようとしたストームブリンガーに対し、この剣と自分の腐れ縁を切ることは不可能だと悟ったエルリックがヤケクソ気味に呟いた台詞。このシーンは作品を代表する名場面(?)なので、とにかく読んでもらいたい。 「いかにもわたしがメルニボネのエルリックだ。頼み事ならきかぬし、こちらも頼まぬ。それを承知の上で、わたしを二十日間探していたわけをきかせてくれぬか」(94P) *二十日間エルリックを探していたシャーリラに対する返答。 「わたしは悪しき人間だ、娘御。わたしの運命は地獄に呪われている。だが、それを知らぬほど愚かでもないし隠すつもりでもない。いささかの真実をお話ししようか。それを伝説とよぶのはそなたの勝手だが。一年前、ひとりの女が、わたしの忠実な剣の錆となったのだ」 「それからというもの、わたしは女に求愛したことがない。女を欲しいとも思わぬ。なぜ、今さらそのならわしを破る必要がある?お望みなら、美辞麗句を並べて進ぜようか。そなたはいかにも美しく慕わしく、詩想を掻き立てるからな。だが、そなたのようなたおやめに、わたしの暗い重荷をいささかでも背負わせるつもりはない。儀礼以上のかかわりが生じれば、その重荷は不本意ながら、そなたの肩にも背負わされることになる」(94P) 「わたしは時々、眠りながら悲鳴をあげることがあるとも言っておこうか。とうてい口にできぬほどの自己嫌悪にさいなまれるのも、しばしばだ。今のうちに去るがいい、娘御。そなたの魂に苦しみしかもたらさぬエルリックのことは忘れて」(94〜95P) *いきなりのこの長広舌。俺がシャーリラなら「誰も美辞麗句を並べてくれなんて頼んでない」とツッコむところだ。 「それはうまい答えだな」 「それに、わたしの気をそそる」(98P) *舌の根も乾かぬうちに、シャーリラに同行することを決めたエルリック。「いけしゃあしゃあと」という言葉は、このくだりの彼にこそ相応しい。 「わたしにはわからないのだ。これが唯一の真実だ――シャーリラ。わたしにはわからぬ、ということが」(103P) *学校や職場で、質問に答えられないときに使ってみよう。 「わたしは憑かれた人間だ」 「そして、この悪魔の剣がなければ人間ですらないのだ」(103P) *剣なしでは生きていけないエルリックの愚痴。 「この黒い剣がなければ、わたしは廃人にすぎない。だが、この剣はわたしに何をしたのだ?もうわたしは永久に、これに縛りつけられていなければならぬのか」(141P) *失われた体力を魔剣の力で回復―RPG的にはおいしいシチュエーションだが、エルリックにとっては絶望以外のなにものでもない。 「もうわたしは、なぜ生きるかを知ることも決してなく、生きてゆかねばならないのだ――生にはそもそも意味があるのかないのか?それもあの『書』になら書いてあったろうに。けれど、たといそれを知っても、わたしは信じただろうか。わたしは永遠に疑い続けるものだ――われとわが行為を、己れから出たものとも断じきれず、かといって、究極の存在がわれらを導いていないとも言いきれぬ。知ることのできるものは幸いだ。今やわたしに残されているのは、こうして歩き続け、生を終える前に、真実が見えてくるのを祈ることしかない」 「われらは出会わねばよかったのに。<踊る霧>のシャーリラ。しばし、そなたは希望を与えてくれた――わたしは、やっと自分自身と和解できるのだと思った。だがそなたのせいで、わたしは前以上の絶望に突き落とされたのだ。この世界には救いなどない――悪意に満ちた運命あるのみとな。さらばだ」(148P) *エルリックが世界に絶望するのは勝手だが、その責をシャーリラに負わせるのは筋違いだと思う。 「いい女だった」 「だが、わたしを愛すれば、命まで危うくなる。彼女は、彼女の落ちつくべき処に落ちついてほしい。わたしはすでに、愛した女を一人殺している。ムーングラム。もうたくさんだ」(153P) *ムーングラムから、なぜシャーリラを捨ててきたのかと問われたのに対する返答。しかし、どうにもとってつけたような感が拭えない。「落ちつくべき処に落ちついてほしい」などと言っているが、シャーリラはのちの巻で名前さえも出てこないし。エルリックにとってもムアコックにとってもどうでもいい女だったというのは言い過ぎか。 「わたしが選んだことだ。やりたいからやる。ムーングラム」(160P) *世の中、それで通れば苦労はないのだが…。平気でこんなことをおほざきになるのは、やはり皇帝育ちゆえか? 「言いわけは好まぬが、人助けも好まぬ」 「今まで、わたしが手を貸した人間は、必ずしも良い目に合わなかったからな。女王陛下の腹違いの兄上ダーミットが、そのいい証拠だろう」(164P) *イムルイル襲撃の際、ジャーコルの先王ダーミットが戦死したことをなじられたエルリックが、逆にそれを理由にして女王イシャーナの「手を借りたい」という伝言を断った台詞。こんなことを言っておきながら、掌をかえすようにイシャーナとねんごろになるのもシャーリラの時と同様なのだが。 「あなたのなさった、わたしの性格描写は不完全だ。イシャーナ女王――こうつけ加えるべきだったな。“世事に無関心――しかして執念深し”と。わたしは、あなたの飼い犬の魔術師どのに、復讐したくてたまらぬのだ」(206P) 「あなたの言葉どおり、わたしはあいもあわらぬメルニボネの人間だ!この倣岸な血が、身のほど知らぬやつへの復讐を求めるのだ!」(207P) *イシャーナのもとを去るために、セレブ・カーナへの報復を口実にするエルリックの台詞。ちなみにイシャーナのエルリック評は、「繊細にして残忍、冷酷にしてあのムーングラムどのには誠実」というものだった。 |
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